人を褒めることがこんなに難しいとは思わなかった
妻はよくお菓子を作ってくれる
僕はいつも「わーい、美味しそうだね」と軽い気持ちで、すぐ食べてしまう
(折角作ってくれたものを、大したリアクションもせずに、バクバク食べるのは本当に良くない)
自分でも行動をなぜ改めないのかサッパリ分からない
作ってもらえて用意されているのが当たり前のように、バクバク食べる
感謝の仕方を忘れたかのように、バクバク食べる
ただの嫌な夫である
バナナとピーナッツバターのマフィンを作ってくれた
自分の妻を、公に褒めるのは円満アピールみたいで気が引けるのだが、作ってくれたバナナとピーナッツバターのマフィンが本当に美味しかった
妻がこれまでに作ってくれた沢山のお菓子は、もちろんどれも美味しかったのだが、このマフィンは僕の中で衝撃だった
僕:「めちゃくちゃ美味しい!バナナの甘さも生地の甘さもちょうど良い!何これ!食感にサクサクがあって、フワフワもトロトロもある!ひとつのマフィンに詰まっててすごく美味しい!!」
普段は全く感想も言わない人間が、ここぞとばかりに溢れるコメントを述べる
僕は妻のお菓子に対して最大限の賛辞を送ったつもりだったが、妻は戸惑っていた
妻の戸惑い
僕からのマフィンへのコメントで戸惑っているというより、何やらこのマフィンの製作工程は、これまで作ってみたお菓子のなかでトップクラスに作り易いらしい
妻の心情としては「手軽に作ったお菓子のほうが、手間を惜しまずに作ったお菓子よりも反応がいいとはどういうことだ?」になっていた
やばい、目の前にあるマフィンのみを勢いだけで褒め垂れ流したコメントは、これまでの妻のお菓子作りの歴史への配慮がゼロだった
ここはどうにか取り繕わなければ!
僕:「本当に美味しくてびっくりしているんだよ!シンプルイズベストみたいな感じかな!」
妻がこれまでに挑戦した複雑な工程を踏まなければならないお菓子たちに向けてのフォローをするかと思いきや、「シンプルこそ至高」という自分の価値観を妻に押し付ける
逆に煽ってしまっているではないか、おい
だめだ!ここは勢いだけのパワープレイで切り抜けるしかない!
僕:「食べ応えを感じるのは、ピーナッツバターが濃厚さを出してるのかな?飲み込んだ後からも、ピーナッツの香ばしさが口の中で広がるね!」
僕:「焼いたバナナと、表面のカリカリした生地と、中のフワフワを一度にほおばるのが1番美味しさを感じるよ!食べたら無くなってしまうのが悲しいから、また作ってほしいです!」
いつもリアクションの薄い人間が、無理にしゃべろうとするだけでこんなに変な空気になるのだろうか
普段からの行いが全て裏目に出てしまっている
場を散々荒らした結果、妻は「喜んでくれて良かった!食べてくれてありがとう!」と優しい言葉をくれた
本当にすまない、バナナもピーナッツバターもマフィンも好きで、全部詰まってる夢のようなお菓子だったんだ
美味しさを自分本位に伝える前に、もっと妻に色々と質問したり話をしてみるべきだったと思う
どうやって作ったのか
どのくらい時間がかかったのか
完成までの難易度など
そして普段から人からしてもらったことを「当たり前」と思わずに、心からお礼を伝える姿勢を忘れないこと
いや難しい!!僕の人間性が足りなすぎる!!